2014年4月のWindows XPのサポート終了までに移行を完了する企業は49.2%――。日経パソコン誌が電子情報技術産業協会(JEITA)の協力を得て、2013年4月から5月にかけて国内企業を対象に実施した「企業の情報化実態に関する調査」(930社の情報システム担当者から回答)からは、こんな事実が明るみに出た。さらに、オフィスソフトについては同時期にサポートが終了する「Office 2003」を約8割の企業がいまだに使っている。大きな変革が求められている企業情報システムについて、「パソコン、OS(基本ソフト)、オフィスソフト」の実態を報告する。
今回のアンケート調査では、回答企業の37.6%が2013年度の情報化投資を「前年度よりも増加」と回答した。予算を増やすという企業も、2年連続で増加した。
具体的にはどのハードウエアへの投資を増やそうとしているのか。調査結果を分析すると、その一つはパソコンであるようだ。2012年度のパソコン導入台数と、2013年度の導入予定台数を、パソコンのタイプ別に聞いた。すると、デスクトップ型、ノート型、携帯ノート型のいずれも、2012年度の導入実績に比べて導入予定台数が増えている(図2)。
■間近に迫る「XPのサポート終了」
背景にあるのは、2014年4月に迫っているWindows XP(以下、XP)のサポート終了だろう。XPに加えて、Office 2003と、XPにプリインストールされているWebブラウザーのInternet Explorer 6(IE6)のサポートが同時に切れる(図3)。
2014年4月9日のサポート終了後は、これまでWindows Updateなどで提供されてきた「セキュリティ更新プログラム」が提供されなくなる。不具合や脆弱性が見つかっても、基本的にマイクロソフトは対処してくれない。
またXPやIE6を前提とした、サードパーティー製のソフトウエアや周辺機器も、サポートやアップデートが終了する可能性が高まる。マイクロソフトがOSをサポートしない以上、そのOSで動作するハードやソフトの動作を保証するのが難しくなるからだ。
こうしたリスクやデメリットを考慮すると、企業はXPの使用を停止せざるを得ない。より新しいOSへの移行やパソコンのリプレースを検討する必要が生じている。
■「過半数がWindows XP」がまだ6割超
しかしながら、XPへの移行は進んでいないのが実情だ。社内で使用しているパソコン用OSのうち、2013年3月時点で最も多いOSは何かを聞くと、64.7%が「Windows XP」と回答した(図4)。多くの企業にとって、いまだにXPがメインのOSなのだ。
[左]図4 2013年3月時点で最も多く利用しているOSを聞いた。XPという回答が6割を超えた
[中央]図5 Windows XPが社内のパソコンで使っているOSに占める割合を聞いた。その中でも、「90~100%」と回答した企業が16.5%と最も多かった
[右]図6 Windows XPを使用している企業に、いつまでに別のOSへの移行を終える予定かを聞いた。XPのサポートが終了する2014年4月までに移行を完了する企業は半数に満たない
社内のパソコンの中でXPのパソコンが占める割合も聞いた(図5)。9割以上がXPと回答した企業は16.5%、8~9割の企業は10.6%、7~8割は9.4%と、高い割合で使用している企業が、少なからずある。サポート期限終了まで約1年というタイミングでの調査であることを考えると、対策が急がれる。
実際に企業は、2014年4月までにXPから別のOSに移行を完了できるのだろうか。その移行計画を聞くと、「2013年12月まで」に完了を予定する企業が14.6%、サポート期限である「2014年4月まで」と回答した企業は34.6%だった(図6)。つまり、サポート期限までに移行を完了する予定の企業は49.2%にとどまる。残りの半数は「2014年5月以降」(26.0%)、「移行しない」(5.2%)、「分からない」(19.7%)という状況だ。
■従業員1000人以上の企業に移行の遅れ
OS移行の状況は、業種や企業規模によっても異なる。業種では、信頼性の確保が切実な金融/証券/保険業が移行を計画的に進めているようだ(図7)。28.6%が「2013年12月まで」、46.4%が「2014年4月まで」と回答。合わせて7割以上の企業がサポート期限までに作業を終える見通しだ。
図7 Windows XPからの移行完了時期を、業種別に聞いた。金融分野では7割以上の企業が2014年4月までに移行を完了する予定。一方、運輸やエネルギー関連の企業は4割強しか移行を完了しない。製造業も半数に満たなかった
反対に従業員数の多い企業では、「XPパソコンの台数が多いため」(情報処理/ソフトウエア関連、1000人以上)、完全移行までに時間がかかるケースが多い。「1000人以上」の企業では、2013年12月までに11.9%、サポート期限までに計46.2%が移行するにとどまり、100人未満の企業に比べて遅れている。
■「リース期間中だから移行できない」
企業によって、サポート期限までにXPから移行できない理由はさまざまだ(図9)。目立ったのは「リース期限前には移行できない」という回答。「2011年にリースしたXPのパソコンが2015年まで残る」(運輸/電力・ガス・水道業、500~999人)など、4年または5年契約でパソコンをリースしている企業が少なくない。
業務システムの都合上、XPから移行できないとする回答も多かった。「XPでしか動作しない業務システムがある」(製造業、1万人以上)、「業務システムがIE6までしか対応していない」(商社/流通/小売業、1000~9999人)など、システムの改修や移行が間に合わないケースだ。
富士通・統合商品戦略本部TRIOLEオファリング推進部の西山聡一シニアマネージャーは、「パソコンを業務端末と考えている企業は、業務システムとセットで移行スケジュールを組むため、タイミングが遅れる場合がある」と指摘する。
■移行先はWindows 7
図10 Windows XPを使用している企業に、移行先としてどのOS を予定しているかを聞いた。9割以上の企業がWindows 7を選んだ。最新OSであるWindows 8とした回答は20.7%にとどまった
XPから移行する企業が、次に採用するOSは何か。最新OSである「Windows 8」かというと、そうではないようだ。移行先として予定するOSを聞くと、最も多かったのは「Windows 7」で、9割以上の企業が選択した(図10)。
Windows 8を導入する予定の企業は、現時点では2割程度にとどまる。「一部導入する時期」と「全社的に導入する時期」をそれぞれ聞くと、Windows 8を「全社的に導入済み」と回答した企業はなく、「一部導入」とした企業も14.7%だった。「全社導入の予定なし」との回答は77.6%、「一部導入の予定なし」という回答は55.6%に上る(図11)。
図11 Windows 8について、一部に導入する時期、全社に導入する時期をそれぞれ聞いた。全社導入を予定していないと回答したのは77.6%、一部導入も予定していないと回答したのは55.6%と、前向きでない企業が多い
これについてJEITAは、「企業が新しいOSを導入する場合、導入済みの既存システムや従来の業務手順などに問題が生じないことを確認するため、導入前に半年~1年程度の評価を行うのが一般的。この調査時点で、Windows 8はリリース後半年しか経っていない新しいOSであり、企業での評価が完了していないため、Windows 7を選択する企業が多かったと考えられる」と分析する。
実際に回答企業の中には、「業務に必要なソフトウエアの動作検証が済んでいない。今のところ業務向けのOSではないと考えている」(商社/流通/小売業、500~999人)といった声が目立った。
■8割の企業がサポート切れるOffice 2003利用
一方、XPと同じ2014年4月にサポートが終了するOffice 2003の利用状況はどうか。2013年3月時点で使用しているオフィスソフトの種類を聞くと、「Office 2003」と回答した企業が最も多くて79.9%。約8割の企業が、間もなくサポートが切れるOffice 2003を使用している実態が浮かび上がった。サポートが既に切れている「Office 95/97/2000」「Office XP」を使っているとの回答もそれぞれ2割程度あった(図12)。
図12 2013年3月時点で社内で使用しているオフィスソフトを聞いた。2014年4月にサポートが切れるOffice 2003を使用する企業は約8割に達した。既にサポートが切れているOffice 2000やOffice XPを使っている企業も、それぞれ2割程度あった
JEITAはこうした企業の状況を、「Officeはボリュームライセンスなどを通じてパソコンとは別に購入するケースが多い。このためOS以上に、同じバージョンを継続的に使用する傾向がある」と見る。